堺市のタニダ鍼灸治療院|トリガーポイント施術に特化

072-269-4901

定休:不定休

腰痛と姿勢の関係を巡る論争

腰痛と姿勢の関係を巡る論争

腰痛は多くの人々が日常的に経験する健康問題です。不良姿勢はその原因のひとつと考えられており、腰痛と姿勢との関係は長年にわたって議論されてきました。
従来の考え方では、悪い姿勢が腰痛の主な原因であり、正しい姿勢を維持することが腰痛の予防・改善に不可欠であるとされてきました。しかし、最近の研究では、腰痛と姿勢の関係を疑問視する声も増えており、新たな視点が注目されています。
本記事では、腰痛と姿勢との関係に関する研究と、姿勢以外の要因について紹介します。

姿勢が腰痛に与える影響

一般的な見解では、長時間の不適切な座位や立位の姿勢が腰椎(背骨の下部)に負担をかけ、腰痛を引き起こすとされています。
例えば、背中を丸めて座ったり、椅子に浅く座って背もたれに寄りかかる姿勢は、腰椎に過度の圧力をかけるとされてきました。こうした不良姿勢が椎間板の圧迫や筋肉の緊張を引き起こし、腰痛を引き起こすと考えられてきたのです。

実際に、デスクワークや長時間の座り仕事をする人に腰痛の発生率が高いことは広く知られています。また、エルゴノミックチェア(人間工学に基づいた椅子)や定期的な姿勢の改善を行うことで、腰痛を軽減できるという研究結果もあります。
このような背景から、腰痛と姿勢の関係は長らく直線的に結びつけられてきました。

腰痛と姿勢の関係を否定する研究

しかし、近年では腰痛と姿勢の関係性を否定する、または過度に強調されすぎているという研究も増えています。

例えば、2019年に発表されたシステマティックレビュー(一定の基準や方法論に基づいて質の高い臨床研究を調査し、エビデンスを適切に分析・統合する手法)では、座位や立位の姿勢が腰痛の発生に直接関与しているという明確な証拠は見つからなかったとされています。つまり、腰痛と姿勢の関連性が弱いことが示唆されたわけです。

さらに、メタアナリシス(複数の研究結果を統合して解析する統計手法)による研究でも、姿勢そのものが腰痛の主因であるという考えに疑問が呈されています。特に、長時間の座位や立位よりも、身体活動の欠如が腰痛の発生に大きな影響を与えているとされています。定期的に体を動かすことが腰痛の予防に効果的であり、姿勢そのものよりも「動かないこと」が腰痛のリスク要因であるという見解です。

生物・心理・社会モデルの視点

腰痛と姿勢の関係性を見直す中で、生物・心理・社会モデルの重要性も浮かび上がっています。このモデルでは、腰痛は身体的な要因だけでなく、心理的・社会的要因も大きく影響する複雑な現象であると考えられています。
例えば、仕事や家庭でのストレス、不安、抑うつなどの心理的要因が、腰痛の発生や慢性化に寄与する可能性があります。

ある研究では、同じような職業的負荷を受けている労働者の中でも、心理的なストレスを抱えている人のほうが腰痛の発生率が高いことが確認されています。

このように、心理的・社会的要因が腰痛に与える影響は無視できず、単に姿勢を正すだけでは腰痛の根本的な解決にはつながらないと考えられます。

姿勢矯正の効果に対する疑問

従来、姿勢矯正は腰痛改善のための標準的なアプローチとされてきましたが、いくつかの研究ではその効果に疑問が呈されています。

2018年の研究では、腰痛患者に対して姿勢矯正を行ったグループと、姿勢矯正を行わずに運動療法やリラクゼーションを行ったグループを比較しました。その結果、両者の間に腰痛の改善度合いに大きな差は見られず、姿勢矯正が腰痛の治療において必須ではない可能性が示されました。

この結果は、腰痛の原因が単なる姿勢の悪さに起因するだけでなく、他の多くの要因が絡んでいることを示唆しています。姿勢矯正を行うことは一定の効果があるかもしれませんが、それだけに頼るのは限界があるということです。

まとめ

腰痛と姿勢の関係についての理解は、近年の研究によって大きく変わりつつあります。確かに悪い姿勢が腰痛の一因であることは否定できませんが、それだけで説明できるほど単純な問題ではありません。

私自身の臨床経験に照らせば、姿勢管理はそれほど重要でないように思います。それどころか、腰痛を恐れて常に姿勢を意識している人は、かえって痛みを感じやすい心理状態になっている印象すらあります。

腰痛を改善・予防するには、姿勢を意識するだけでなく、定期的な運動や心理的なストレス管理、職場環境の見直しなど、多角的な視点を持つことが肝要です。
心理的・社会的要因や運動不足、ライフスタイルなどが複雑に絡んだ多因子的な問題として、包括的にアプローチすることが、腰痛と上手に付き合うカギとなるでしょう。

参考文献

施術者情報

タニダ鍼灸治療院 代表 谷田陽平

氏名:谷田 陽平
所有資格:はり師、きゅう師(鍼灸師)
講師歴:KTPトリガーポイント研究会技術指導講師、大阪医専鍼灸学科非常勤講師、大阪医専柔道整復学科非常勤講師、関西医療学園専門学校東洋医療鍼灸科非常勤講師