鍼の本数や刺激量はどう決まる?自分に合った鍼灸院を選ぶための基礎知識
鍼灸の受療を検討していて、「何本くらい刺すんだろう?」「たくさん刺した方が効果的?」「1本だけでも効果はある?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
この記事では、多くの方が関心を持っている「鍼の本数」と、それに関連する「刺激量」について詳しく解説します。これから鍼灸を受けようと考えている方は、ぜひ鍼灸院選びの参考にしてみてください。
鍼の適正本数は?
一回の施術に使用する鍼の数は、施術者や院の方針によって大きな差があります。少なければ1本、多ければ数百本に及ぶことも珍しくありません。
なぜこれほど本数にばらつきがあるのでしょうか?
鍼の本数は、一体何を基準に決められているのでしょうか?
実は、鍼灸には標準的な施術というものがなく、刺鍼数は施術者が採用する施術法(施術理論)に強く影響されます。
「鍼は少ない方が体への負担がかからなくて良い」「少ない方が効果的だ」と考えるか、あるいは「効果的な施術にはたくさんの鍼が必要」と考えるか――それぞれの施術法の基盤となる施術理論が、使用本数に直接反映されるわけです。
いずれにせよ、「施術効果を得るには『刺激量』が適切でなければならない」というのが多くの鍼灸師に共通する認識であり、刺鍼数はこの刺激量を左右する極めて重要な要素と位置づけられています。
刺激量にかかわる要素
鍼の刺激量は、いくつもの要素が複雑に組み合わさって決まります。前述の本数はそのうちのひとつにすぎません。
ここでは刺激量にかかわる要素のうち、以下の4つに絞って解説します。
- 鍼の本数
- 鍼の太さ
- 刺入深度(刺す深さ)
- 鍼のひびき(得気)
それぞれ詳しく見ていきましょう。
鍼の本数
前述のとおり、鍼の本数は1本から数百本まで幅があり、どのような施術法を用いるかが刺鍼数を大きく左右します。
もちろんそれだけで本数が決まるわけではなく、実際には症状の性質や範囲、受療者の体質や体調なども加味されたうえで適切な本数に調整されます。
基本的には、刺鍼数が増えるほど刺激量も大きくなると考えられますが、本数が多いほど効果が高いとは限りません。
鍼の太さ
日本で一般的に流通している鍼の直径は0.1mm〜0.45mm程度で、臨床現場では0.16mm〜0.2mmのものがよく使われている印象です。
刺激量は鍼が細いほど小さく、太いほど大きくなると考えられています。
痛みや出血に配慮すべき部位には細い鍼を、硬い組織や深部の筋肉には太い鍼を選ぶなど、体質や部位に合わせて太さが選定されます。
刺入深度(刺す深さ)
鍼の刺入深度は、施術の目的や解剖学的な安全性、受療者の体格などから細かく調整されるもので、「このツボは何cm」というような固定的なルールはありません。
鍼によって生じる微細な傷は、深く刺すにつれて大きくなり、それに伴って刺激量も増します。
なお、特殊な例として「接触鍼(せっしょくしん)」という皮膚に触れるだけの刺さない手法もあり、これは最も低刺激なアプローチといえます。
鍼のひびき
鍼を刺した際、注射のようなチクッとした痛みとは異なる、「ズーンと重だるい」「痛気持ちいい」といった独特の感覚を覚えることがあります。この独特の感覚がいわゆる鍼の「ひびき」です。
・中国の考え方:「得気(とっき)」と呼ばれ、「得気不至、病不除(得気に至らざれば、病除かれず)」という言葉があるほど重要視されています。
・日本の考え方:ひびきはあくまで反応のひとつとして捉えられる傾向にあり、中国ほど重要視されません。
特に日本の伝統鍼灸では、鍼の繊細さや柔らかさが大切にされ、強いひびきを伴わない浅い刺鍼や刺さない鍼(接触鍼)、つまり少ない刺激量でも十分に高い効果が得られると考えられています。
トリガーポイント鍼療法における各要素の解説
前項では鍼の刺激量にかかわる4つの要素を紹介しました。ここからは当院の施術における各要素の解説をしていきます。
残念ながら、当院で提供できる施術のすべてについて解説することはできないため、ここでは運動器(筋肉・腱・靭帯などの組織)の過敏・発痛部を施術対象とする鍼法「トリガーポイント鍼療法」に絞ってお伝えします。
鍼の本数
トリガーポイントを対象に鍼をする場合、ある程度の本数が必要になります。これはトリガーポイントがツボのような「点」の存在ではないうえに、1本の鍼で処理できる範囲が限定的だからです。
また、症状とトリガーポイントは必ずしも1対1で対応しないことも本数が多くなる要因です。特に慢性化した症状では、複数のトリガーポイントが存在する前提で施術を進めるため、自ずと刺鍼数が増えることになります。
当院では10〜30本前後を目安に、症状や施術範囲、年齢、鍼に対する感受性の違いなどに合わせて適宜増減しています。
鍼の太さと刺入深度
日本では細い鍼を使用した「優しい刺激」「痛くない鍼」を売りにした施術が多いのですが、細すぎる鍼はトリガーポイント鍼療法には向きません。これはトリガーポイントが深部の構造にできやすく、容易に曲がる細い鍼ではヒット率が下がるばかりか、意図しない組織を誤刺するリスクが高くなるからです。
トリガーポイント鍼療法に用いる鍼には「目的とする構造に到達する長さ」と「正確・安全な刺鍼を担保する太さ」が求められます。当院の施術で使う鍼も当然これらの基準を満たすものです。
具体的には、長さ約5cm・直径0.2mm〜0.24mmを基本サイズとし、必要に応じてより長く太い鍼を使用します。
鍼のひびき
経穴(ツボ)への刺鍼では必ずしもひびきが誘起されるわけではありませんが、トリガーポイント鍼療法においては話が別です。トリガーポイントとひびきは切っても切れない関係にあり、鍼がトリガーポイントに正確に到達したとき、必ずひびきが生じます。
ひびきは「鍼が過敏・発痛部にきちんと当たった」ことを示すサインであり、施術上避けることができない反応なのです。
当院には鍼のひびきを好む方が比較的多く来院されますが、「ひびきが苦手」「刺激に敏感で不安」という方も当然いらっしゃいます。そのような場合、徒手療法など鍼以外のアプローチを中心に施術を組み立て、段階的に鍼の比率を増やしていくことを推奨しています。
まとめ
鍼の本数に「これが正解」という絶対的な基準はなく、施術理論・鍼の太さ・刺入深度・ひびきといった複数の要素が組み合わさって、はじめて適切な刺激量が実現されます。大切なのは本数の多さや少なさではなく、受療者一人ひとりの状態に合わせた刺激量のコントロールです。
鍼灸は施術者によってアプローチが大きく異なります。「なんとなく不安」「自分に合うか心配」と感じている方こそ、事前に施術方針を確認し、納得したうえで受療されることをおすすめします。あなたに合った施術を見つけることが、回復への第一歩となるはずです。
施術者情報
氏名:谷田 陽平所有資格:はり師、きゅう師(鍼灸師)
講師歴:KTPトリガーポイント研究会技術指導講師、大阪医専鍼灸学科非常勤講師、大阪医専柔道整復学科非常勤講師、関西医療学園専門学校東洋医療鍼灸科非常勤講師
